あるドラマで、宇宙飛行士がロケットに乗る前に家族や友人へ遺書を書く場面がありました。命を懸けて宇宙へ向かう覚悟の表れだそうです。
日本では「遺書を書く」と聞くと、縁起でもないと敬遠されがちです。でも、私たちは誰もが限りある命を生きています。病気、事故、災害——予期せぬ別れは、いつ誰に訪れるか分かりません。だからこそ、大切な人に思いを残す手紙を書くことは、自然で、優しい行為なのです。
ここでは、法的な遺言ではなく、仏事に携わる僧侶の立場から「遺書に書いていただきたいこと」をお伝えします。
まず一つ目は、自分の人生について。仕事、趣味、特技など、丹精込めて取り組んできたことを書いていただけると、戒名を授ける際や法話で故人を紹介する場面で大変参考になります。棺に納める品やお供え物を選ぶ際にも役立ちます。
二つ目は、家族への思い。家族にどう生きてほしいか、気になっていたことなどを綴ることで、喪主様の挨拶にも心がこもり、参列者の胸にも響きます。
三つ目は、地域への愛着。あなたが埋葬されているお墓の地域がどのような地域か書いてください。その土地の魅力や思い出深い場所、季節の風景などを記していただけると、残された方々がその土地を訪れお墓参りするきっかけになります。故人が愛した場所を訪れることで、供養の場としての意味も深まり、心の拠り所となるでしょう。
一方で、遺書に書かない方がよいこともあります。
例えば、参列してほしくない人の名前。仏事は「入る者は拒まず、去る者は追わず」が基本です。個人的な感情で参列者を制限することは、故人を偲びたい人の気持ちを傷つける可能性があります。
また、悪口や批判も避けたいもの。長年親しくしてきた人への否定的な言葉は、裏切りにもなりかねません。短所を述べる際は、必ず温かいフォローを添えてください。
そして、「迷惑をかけたくない」という決めつけも注意が必要です。葬儀やお墓のことを「負担になるから」と一方的に断じるのではなく、「皆で話し合って決めてください。私はその結果を受け入れます」と残す方が、家族の心を尊重することにつながります。
遺書は、残された人への最後の贈り物です。どうか、温かい言葉で、あなたの心を届けてください。
合掌